片麻痺患者の上肢挙上運動で大胸筋を過剰に収縮させてしまう原因とは?

片麻痺患者の上肢挙上動作を観察する機会がよくありますが、多くの患者で動作時に大胸筋を過剰に収縮させています。

大胸筋を過剰に収縮させることで、Full range まで挙上することができない、大胸筋に痛みが出現してくるなど悪影響がたくさんあります。

今回はその理由について私見を述べていきたいと思います。

大胸筋の解剖・運動学

大胸筋は鎖骨部線維と胸骨部線維に分けられます。

大胸筋

起始は鎖骨・胸骨・第1〜6肋軟骨・腹直筋鞘、停止は上腕骨大結節稜です。

支配神経は内外側の胸筋神経で、髄節レベルは C5〜Th1 です。

作用は肩関節の屈曲・内転・内旋で、正常であれば 0〜140° のときには活動は低値で、それ以降は徐々に活動してきます

大胸筋が過剰活動する理由とは?

まず、結論からいうと、「肩甲骨を内転位で固定してしまっている」ためです。

一方の肩を 90° まで外転させて、そこから水平内転運動をしてみます。

そのときに大胸筋の触診をしながら運動をしていくと、だいたい 50° くらいまでは大胸筋の収縮はほとんど感じません。

それ以降の 60° ぐらいからは大胸筋が徐々に収縮してきて、90° を超えたあたりからは大胸筋が強く収縮しているのが分かります。

なぜかといいますと、A地点(下図)から 50° くらいまでは肩甲上腕関節の運動ではなくて、肩甲胸郭関節の運動によって遂行されているためです。

水平内転

つまり、初めは肩甲骨の外転運動によって遂行されていますので、大胸筋が働くわけがありません。

50° 以降は肩甲上腕関節(肩関節)の運動によって遂行されていくので、大胸筋が徐々に収縮くるのです。

しかし、肩甲骨を内転位で固定して、同じように水平屈曲運動を行うと、大胸筋が水平屈曲開始早期から働いてくるのがわかります。

これは開始初期の肩甲骨外転運動を行うことができないため、肩甲上腕関節の運動によって水平屈曲運動を代償しているためです。

片麻痺患者では屈筋病的共同運動パターンが多く、肩甲骨は内転位になってしまうため、片麻痺患者の水平屈曲運動時では早期から大胸筋が過剰活動してくるのです。

では、このメカニズムを肩関節屈曲運動に応用してみます。

肩関節の屈曲初期から肩甲上腕関節は動かず、屈曲初期では肩甲胸郭関節が外転方向へと動いてきます。

屈曲初期から肩甲骨が外転方向へ動いてくれるため、肩甲上腕関節の動きはあまり必要なく、もちろん大胸筋の収縮も必要ありません。

しかし、片麻痺患者で屈筋病的共同運動パターンを呈し、肩甲骨が内転位で固定してしまっている患者ならどうでしょう。

屈曲初期から肩甲骨が外転方向へ動かないため、代償的に肩甲上腕関節が動いてきます。

すなわち、屈曲初期から大胸筋の筋活動に依存してしまうため、全周期にわたって大胸筋が過活動してしまうのです。

リハビリ方法とは?

 

このメカニズムから考えるとやることは1つだけです。

肩甲骨を内転位にしている筋の緊張を緩和」することです。

多くは菱形筋、僧帽筋中部線維の緊張が高くなっています。

ただ単にストレッチだけをしても伸長している間は緊張は緩和しますが、伸長が終了するとすぐに緊張が戻ってしまうので、ストレッチをしながら動作をすることが重要です。

例えば、肩甲骨の内転筋群に抑制を加えながら、上肢挙上動作を反復練習する方法などがあります。

今日のリハゴリ俱楽部

  1. 大胸筋を過剰に収縮させて上肢挙上を行う理由は、肩甲骨が内転位で固定してしまっているため。
  2. 多くの片麻痺患者は屈筋共同運動パターンにより、肩甲骨は内転位になっていることが多い。
  3. 肩甲骨の内転位を取り除くためには他動的なストレッチだけでなく筋収縮を利用しながらのストレッチの方が筋緊張を落としやすい。

参考文献

1)楠貴光(2015)「肩関節水平屈曲角度変化が大胸筋の筋電図積分値相対値に及ぼす影響」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です